前回に引き続き映画紹介記事のリサイクル、ということで。
しかし去年は若松孝二、今年には大島渚と『愛のコリーダ』製作に携わった二人が続けて亡くなるとは・・・。ご冥福をお祈りします。
鬼火(1963)監督 ルイ・マル
出演 モーリス・ロネ
ジャンヌ・モロー
アレクサンドラ・スチュワルト
音楽 エリック・サティ
一人の男が自殺するまでの2日間を描いたこの作品、地味ですがそのテーマは存在の根源を考えさせられるようなとても重苦しいものです。
美貌も能力もありパリで輝かしい20代を過ごした、他者から見れば一体何が不満なのだというような境遇の主人公アランですが、そんな自分に凡庸さと軽蔑を感じてしまう。
これからの人生を考えても、ただ家庭を持ち職に就き暮らすのも酒や麻薬に溺れ日々がすぎるのを待つのもあまりに緩慢で耐えられなく、周囲の人間が言う人生の素晴らしさを全く理解することができない。
友人から、社会から空虚な世界に取り残され自分はなにかを待つだけの存在に過ぎないと感じる彼が選んだのは、人生の速度を早めることでした。
かつての友人たちに会いにパリに行った翌日、7月23日。アランは一冊の本を読み終えると銃を自らに向け、引き金を引きます。
愛したかった、愛されたかった人々にこの死をもって拭えない汚点を残すこと。それが彼の唯一完成させた他者との接点だったのです・・・という結論。
クレジットから始まり遺書で終わる構成や、内面までは入り込まずただ空間のみを映すようなカメラ、主張することなく映像の中に溶け込んでいるサティの旋律などなど、主人公アランの虚無感を徹底して凝視するような作りは圧巻の一言。
監督のルイ・マルは当時30歳で、アランとはもう一人の私であるというようなことを述べています。この映画を撮ることによって自身の中の虚無であるアランを顕在化し、折り合いをつけたのかもしれません。
蛇足
鬼火の劇中ではサティの音楽を使っているわけですが、サティは変なタイトルの曲が多いことでも有名ですね。
犬のためのぶよぶよとした本当の前奏曲 とか字面だけじゃわけわからんです。
ぶよぶよに名前が似てるというつながりでもう一曲、ヒカシューの「プヨプヨ」。
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